コーヒーを飲みながら、匠はLINEを確認した。
沙耶からのLINEはあれから来ていない。
「あーっ。俺の馬鹿っ。」
なんであんなことしたんだろ?
まだ想いも伝えてないのに。
沙耶とのキスが頭に思い浮かぶ。
LINEを入れるにも、なんで入れたらいいのか…。
『ごめん!』?突然したことに謝るべき?
でも、謝るとなんか、無かったことに?とか、間違えだったとか。
そんな、まるで否定するかみたいな感じしない?
普通にいつも通りにする?
それもまた、無かったことみたいな曖昧な感じで嫌だ。
俺は無かった事になんてしたくない。するつもりはない。
「告るしかないよなー。」
「あー。やっぱり俺馬鹿!まだ全然勝算ないじゃんよ。」
匠はこれまでの成績はほぼ負け無し。
割と慎重で、相手の気持ちが見えないと勝負をかけない。
だからと言って行動しないで、見てるだけってわけではなく、
気持ちを掴むように努力もするし、アピールも慎重ではあるがする。
でも、今回みたいに気持ちが全然見えないままでキスをしてしまうなんて事は一度もなかった。
沙耶のケラケラ笑う子供のような笑顔に引き込まれたと思ったら、目があったその時に急に大人びた表情に変わった沙耶に、そしてその美しさに魅了されないはずはない。
なんて、匠は自分のした事を正当化した。
「あの表情(顔)はまじ罪だって。」
思い出しただけど、また心臓がドキドキし始めた。
「やっぱり気持ちを伝えよう。」
そう決めて、また沙耶が手をあまり使わずに食べられそうな食料をカゴいっぱいに買いこんだ。
『手の具合は、どう?』
とりあえずLINEしてみた。
既読がつかない。
仕事行ってるのかな?まだ帰ってないのかな?
とりあえず沙耶の家の近くまで行くことにした。
家まで3分くらいのところに、バスケができるような広場があって、そこのベンチで時間を潰すことにした。
5分経った。
既読がつかない。
また、5分経った。
まだ終わってない?
こーゆー時の時間って。ほんとに進まない。
もー何時間もこうしている気がする。
匠は背中を後ろに伸ばしがてら、空を見上げた。
あー沙耶と初めて会った日もこうして空を見上げた時だったな。
あの時は昼まで太陽がギラギラしてたけど。
今日は月明かり…。ちょい寂しいかんじだな。
「何してるんですか?」
匠はびっくりして一気に起き上がると喉の奥が、ムズムズして思わずむせてしまった。
ゴホゴホゴホッー。
「え!大丈夫ですか
そんな驚くとは思わなくて?
ごめんなさい。」
慌てて謝るのは、匠が待ち焦がれた沙耶だった。
匠は、買い出しした袋の中からお茶を急いでだして飲んだ。
「大丈夫大丈夫。ごめんね。勝手に驚いてむせただけだから。
君のせいじゃないから。」
ちょっと涙目な匠の目は、月明かりに照らされてキラキラした。
匠の横にある、大量の食料の袋を見て、沙耶は理解した。
「もしかして、買ってきてくれた?」
「あー。そうだった。
どう?手は。」
「痛み止めのお陰で痛くはないかな。
腫れもだいぶひいたし。
でも、やっぱり色々不自由で。
すごく嬉しい!これ。」
匠の差し入れを喜んでくれる沙耶をジッと見つめていた。
「俺、結構バスケできるんだ!」
バスケットリングの下に、子供が忘れていったのか、本物より2サイズくらい小さそうな、柔らかそうなボールが転がっていたのを拾うと、匠はそれを額につけてつぶやいた。
これが入ったら、気持ちを伝える…。
入らなかったら…。
匠はの手からボールが曲線を描いて離れ、リング目掛けて少し危なげに空中を進む。
あー少し弱いか。
リングまであと15センチのところで曲線の終盤を迎えようとしていた。
だめだ。届かなかった。と目を背けようとした時、
「ゴーッル!」
少し手前で手でリングを作って待ち構えた沙耶が得意げに声を上げた。
「入ったよ!」
「まじ……か?」
想像してなかった沙耶の可愛い行動に思わず呟いた。
匠の足は沙耶に向かっていた。
そして沙耶を抱きしめた。
「どんだけかわいーの。」
匠は沙耶の目を真っ直ぐみて、言った。
「好きだ。」
沙耶は胸がじわっと熱くなるのを感じた。
と、同時にそれを鎮火させるような冷たいものも感じたが、それに蓋をするように、沙耶は一度ゆっくりと目を閉じ、そしてすぐに目を開け匠を見つめた。
「わたしも。」
「好き…です。」
匠はほっとしながら、沙耶をもう一度抱き寄せた。
沙耶をとても優しく包み込んだ。
沙耶はその温かさの中で悲しげな顔をした。
匠はそれを知る由もない。
同じ気持ちだと信じ、疑う理由もなかった。